【BARKS編集部レビュー】フィアトンがさりげなく生み出す、とんでもないリスニング環境

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「おう、なんだなんだなんだ、またすげえやつと出会っちゃったぞ」と、一聴してアドレナリンがブホーと溢れ出た。フィアトン(PHIATON)のPS 20という市場価格8000円のこいつのサウンドがご機嫌すぎて、にやけ顔が戻らない。この「ハーフカナル」との出会いが衝撃的で、あっけなく自分の価値観もひっくり返されたりして。おーい、かあさん、赤飯炊いてくれー!

◆フィアトンPS 20&PS 210画像

これまでカナル型ばかりを手にしレビューを重ねてきたが、それはひとえに生活音や周りの騒音は音楽リスニングにおいて邪魔だと思っていたからだ。遮音性は高い方がいいに決まっていると信じていたし、実際遮音してくれたほうが、音楽を心地よく楽しめるという考えは今でも変わらない。遮音できれば音量を抑えられ耳にも安全だし。そのため3段キノコや低反発イヤーチップを積極利用したりエティモティック・リサーチのER-4に手を伸ばしたり、あげくノズル長めのカスタムIEMで考え得る究極の静寂を体感したりと、遮音への追求に余念はなかった。

だから、生活音や街のさまざまな騒音と共存しながら、音楽がマスキングされることなくサウンド・バランスを崩さずに気持ちよく鳴らしてくれるアイテムが存在するなんて、想像もしていなかった。柔よく剛を制す、そんな楽しみ方もあるんですなあ。いやー素晴らしい。

フィアトンは韓国クレシン社のオリジナルブランドだが、実はこのクレシン社というのが凄い。日本も含む世界中の大手オーディオ各関連ブランドのOEMを受け、なんと月約2,000万台(!)のヘッドホンを生産しているというとんでもない会社なのだ。そんな彼らが自社ブランドを立ち上げたのが2008年、それがこのフィアトンだった。

膨大な実践ノウハウと蓄積データを有する会社が、培ったスキルをフル活用するのだから、きっと良いモノのはずとの期待をもって現物を入手したが、想像をはるかに超えるサウンドに私はちょい躁状態。未だ日本では馴染み薄いブランドだが、その実力たるや、いやーヘッドホン界の裏番のごとし。

今回ご紹介したいのが「ハーフカナル」をうたっているPS 20とPS 210。見た目は普通のカナル型にみえるが、文字通り完全なカナルではなく、遮音性はほとんどないと考えた方がいい。使用して分かったのは、この「ハーフカナル」というネーミングがいただけないということだ。ハンパなカナルというイメージで、遮音性も半分ですと言われた日にゃ意味分からんと購入意欲はガタ落ちしてしまう。製品の実力を知るに、この誤解はあまりにもったいない。

正しく伝えるならば、耳穴に引っ掛ける耳かけ式と解釈するべき、あるいは耳の穴にフィットするインナーイヤー/オープンエアータイプという理解が正しい。つまり、カナル形状を用いているのは正しく安定したセッティングを得るためで、外界の音を遮音するつもりではないのだ。むしろカナル型特有の密閉感や閉塞感は徹底排除し、忘れてしまうほどの軽い付け心地で極めて自然に音楽を鳴らすことに力点が置かれている。

一般的な耳掛けタイプやインナーイヤータイプが、付け方次第でサウンドが大きく変わってしまうことはきっと皆さんも経験済みだろう。ベストポジションにはめないと盛大に音漏れしているだけで、ちゃんと聴こえていないこともある。ちょっとした位置や角度で聴こえ方が変わり、もはや低音の迫力などは期待していない人も多いのではないか。まして騒音環境では使用に耐えず、電車内での使用などは事実上困難なのが偽らざる現実だと思う。

そんな中で、PS 20が凄かった。耳介でもなく耳のくぼみでもなく、外耳道に引っ掛けることで、中低域から高音域まで素晴らしいバランスをダイナミックにがんがん鳴らしてくれるのだ。しかも音質/音量が安定しており、本体をどう動かしてもサウンドは変化しない。「上手く耳にはめる気遣い」なんて不要で、耳にさっと当てるだけでドスンと低域が鳴り、シャキンと高域が響き、滑らかに中域がうなる。この時点でサウンドバランスは完成されており、ゴキゲンな音楽が流れる。理想にして究極のリスニング環境が一瞬で完成。

そして何より凄いのは、それがどこでも楽しめるということ。遮音性はほとんど無いわけだが、電車内で気持ちよく音楽が楽しめたのは信じがたい衝撃的な事実だった。もちろんボリュームはさほど上げていないし、音漏れも心配ないレベルでの話である。音楽がノイズにマスキングされないのが不思議でならないが、ちゃんと低音も伝わり音像が生成されるので、音楽が全く破綻しない。そのまま電車を降り静かな環境に変わっても低音過多なわけでもない。これがあまりにエポックメイキングだった。

耳掛け式のように適度に環境音を得ながら、カナル密閉型に引けをとらない濃密でしっかりとした音楽を聞かせてくれるのがPS 20だ。音楽がちゃんと楽しめるのであれば、むしろ環境音は遮断したくない。ちょっとコンビニいくときに、ランニングするときに、街をふらふらするときも、そして電車に乗るときでさえこれでOKなのだ。カスタムIEMも最高だけど、PS 20も手放すことのできない貴重なアイテムのひとつとなった。

PS 210もPS 20と同コンセプトの商品で、サウンド傾向もほぼ変わらない。私の耳にはPS 20のほうがより低域と中域が深く好みの音に感じたが、エージングにより変化していく範疇に収まるレベルで、単にデザインや価格で選択しても良さそうだ。PS 210の背面デザインはジェット機のタービンを思わせるヘビーデューティーなもの。アルミによるハウジングも高い質感で、硬質な若々しさがある。一方のPS 20は西洋風でクラシカルな趣きだが、このグロスブラックはグランドピアノをイメージしており、金の枠組デザインはピアノのペダルにインスパイアされたものだとか。

なお、PS 210にはPS 210iというiPhoneでの通話が可能な小型マイク付きケーブル仕様のモデルがラインナップされており、PS 20にはノイズキャンセリング機能が付加されたPS 20 NCが存在する。ノイズキャンセル機能を過信してはいけないが、多くの騒音を軽減してくれるので、もはやPS 20に死角なし、である。ノイズキャンセリングをONにすると若干音楽のゲインも上がる傾向があるが、意図した音質変化は認められず、使用感は上々。単4アルカリ乾電池1個で約50時間機能し、万が一電池が切れても通常のPS 20として使用できるので、その点も心配もなし。

もちろん気になる点もある。PS 20の欠点は筐体の風切音が大きいこと。ケーブルのタッチノイズは許容範囲だが、風が吹くと耳元で不思議なほどピューピュー盛大に音を立てる。もうちょっとなんとかならなかったのか疑問だが、隙のない超優等生に意外なダサい面を見つけたようで、ちょっと微笑ましかたりして。あとは…このデザインか。これはカッコいいのだろうか。自分には音が良さそうに見えなかったので、出会いがなければ興味さえ湧かないタイプなんだけど。

いずれにしろ、カナル型ファンも開放型ファンも全てのイヤホン・ユーザーに、このサウンドを一度体験していただきたい。「ね?凄いでしょ?」とこの素朴な感銘を実感いただきたいのだ。そしてゲットした際には、是非赤飯でお祝いを。

text by BARKS編集長 烏丸

PHIATON PS 20
平均市場価格8000円(PS 20 NC平均市場価格12000円)
・ハーフカナルタイプ・インナーホン
・デュアル・チャンバー構造
・14.3mm大口径ダイナミックドライバーを採用
・XS,S,M,L 4種類のイヤーチップ付属
・キャリングケース付属
・ブラックとホワイトの2色
・ドライバーユニット:14.3mmダイナミックドライバー
・インピーダンス:31Ω
・感度:101db
・再生周波数帯域:15Hz~22,000Hz
・最大入力:30mW
・質量(ケーブル除く):6.2g
・ケーブルの長さ:1.2m
・キャリングケース
・シリコン・イヤーチップ(XS/S/M/L)

PHIATON PS 210
平均市場価格9000円(PS 210i平均市場価格12000円)
・ハーフカナルタイプ・インナーホン
・デュアル・チャンバー構造
・14.3mm大口径ダイナミックドライバーを採用
・ハウジングにアルミ素材を採用
・XS,S,M,L 4種類のイヤーチップ付属
・円筒型のキャリングケース付属
・ドライバーユニット:14.3mmダイナミックドライバー
・インピーダンス:32Ω
・感度:98db
・再生周波数帯域:10Hz~27,000Hz
・最大入力:30mW
・質量(ケーブル除く):8.2g
・ケーブルの長さ:1.2m
・キャリングケース
・シリコン・イヤーチップ(XS/S/M/L)

◆PHIATONオフィシャルサイト
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